ショートショートフィルムフェスティバル&アジア チーフ・プロデューサー 兼 FROGLOUD代表の諏訪慶氏へネスレ日本キットカットブランデッドムービー「What is REAL?」制作の裏側をインタビュー

高雄映画祭で世界プレミア上映されたネスレ日本株式会社(以下ネスレ)キットカットのブランデッドムービー「What is REAL?」制作の裏側を、ショートショートフィルムフェスティバル&アジア チーフ・プロデューサー 兼 株式会社FROGLOUD代表の諏訪慶氏に伺うことができた。

インタビューした諏訪慶氏とは

米国アカデミー賞公認アジア最大級国際短編映画祭であるショートショートフィルムフェスティバル&アジアのチーフ・プロデューサーであり、今回の「What is REAL?」の制作プロデュースも行った。またこの映画祭に集まるクリエイターとのネットワーク、ショートフィルムコンテンツをリソースに企画運営を行う株式会社FROGLOUDの代表取締役として様々なショートムービーの制作に関わっている。

ブランデッドムービーとは

様々なモノ、サービスがあふれる現代において従来のコミュニケーション戦略では消費者とのエンゲージメント形成において次第に効果的ではなくなってきている。そういった状況の中で、ますます多くの企業が動画マーケティングに取り組み始めているが、「ブランデッドムービー」はブランドフィロソフィーやアイデアを反映しつつ、ストーリーテリングやエンターテイメントの力で消費者に対しての価値創造に専念している点において、特にユニークなマーケティング手段になっている。

—ネスレ日本株式会社の台湾インバウンドコミュニケーションの手段として作成された今回のブランデッドムービーの企画背景について教えてもらえますか?

諏訪氏:ネスレのブランデッドムービーへの取り組みは恐らく日本で最も長く、2004年にフィルムフェスティバルがムービー作成を開始する1年前の2003年から取り組みを始めています。その時はまだ「ブランデッドムービー」という言葉もなかったかと思います。実際に一緒にブランデッドムービーの制作を始めたのはネスレがオウンドメディア「ネスレアミューズ」を立ち上げた時で、サイトコンテンツの1つである「ネスレシアター」に今まで自社制作してきたショートフィルムに加えて、商品や会社のブランドを織り込んだブランデッドムービーも制作して、ネスレアミューズを活性化していこうとなったのが始まりです。

そして今回、ネスレが台湾マーケットにキットカットをブランディングしていきたいということで改めてブランデッドムービーをリリースすることになりました。実際に制作を開始するにあたって、台湾でもお仕事をされていて、私たちのフェスティバルにも詳しい永田琴監督を起用することが決まり、企画会議で話し合いをする中で、台湾でも流行っており、台湾の人々にもなじんでもらいやすいキャンプを題材にすることになりました。加えてこれまでショートムービーの中でキャンプを題材にする作品があまりなかったことや、キャンプというシチュエーションが食べやすいお菓子を持っていくなどなど非常にキットカットを登場させるのに自然な流れを汲みやすく、ブランドイメージとの親和性が高かったことも理由に挙げられます。

—台湾の人にもたくさん見てもらいたいということで、どのような部分を制作の中で意識、工夫されたんですか?

諏訪氏:今回は主演が台湾人のフィガロツェンさん、その彼女役で登場したのが日本人の藤井美菜さん。二人とも中国語、日本語を使ったセリフがあるのですが、国を超えたカップルがたどたどしくも一生懸命に意思疎通をはかるシーンは日本と台湾の友好関係を表すことが出来るのではないかと考えました。実際に必死にフィガロツェンさんと藤井美菜さんが中国語と日本語両方でやり取りをしているシーンは国際カップルのリアルを表現していると思いますし、頑張って相手の言葉で伝えようとするシーンは視聴者をよりエモーショナルにし、共感が得られるのではないかと思います。

—キットカットを登場させるタイミングを決めるのは難しかったんじゃないですか?

諏訪氏:商品を出すタイミングを考えることはブランデッドムービーにおいて非常に重要ながら難しいです。というのも、ただ単に何回も出せばいいとか、早く出せばいいとかそういうものではないからです。むしろ、ストーリーに合わせて魅力的に出さなければ、逆にブランドイメージを壊してしまう場合もあります。今回キットカットを登場させた場面についてはまさにネスレがキットカットを通じて伝えたい「おもいやり」を魅力的に表していると思います。

—今回のブランデッドムービーが意識している指標とその達成のためにどんなところを工夫されたんですか?

諏訪氏:昔はYoutubeの再生回数が抑えるべきKPIでしたが、今はそれだけではなく例えば何%の人が最後までムービーを見てくれたかなど意識すべきKPIはたくさんあります。今は最初の5秒だけで視聴回数1としてカウントされます。ですが私たちはもちろん最後まで視聴してもらい、企業や監督のメッセージを伝えたい。なので工夫としては冒頭のつかみの部分で視聴者の人になんだこれは?!と思わせるような問いかけやカットを入れたりするのはもちろんしています。あとは場面場面の感情のバトンを丁寧につなぐことであったり、途中にくすっと笑えるコミカルなポイントをところどころに盛り込んでみたり、最後の最後でちゃんと冒頭の疑問を回収するなど、視聴者を飽きさせないように意識しています。

—諏訪様が考えるインバウンド施策の一つとしてのブランデッドムービーの特異性は何だと思いますか?

諏訪氏:CMとブランデッドムービーの違いにも共通することかと思いますが、CMは商品の機能や価格など表面的な情報を伝えるのに適しているのに対して、ブランデッドムービーというのは企業哲学や伝えたい想いなどコアな部分を描くのに適していると思います。インバウンド施策においても単に「この商品は安いよ」とか「このスポットはおもしろいよ」と伝えるだけではなく、その商品、スポット、サービスの背景にある想いやストーリーを伝えることが大切なのではないかと思います。我々が運営する映画祭はずっと観光というテーマに取り組んでおり、実際に旅もじゃというサイトを運営し日本のご当地ムービーを紹介しているのですが、やはりそこに集まるムービーは想いやストーリーをちゃんとこめていると思います。ということで、ブランデッドムービーにはインバウンドを獲得するにあたって作り手が伝えたい商品、スポット、サービスの表面的な部分に留まらず、その背景にある想いやストーリーを視聴者とうまく共有する手段として非常に特異的で有効なのではないかと思います。

インタビューを終えて

今回のインタビューに際して初めてブランデッドムービーと呼ばれるショートフィルムを視聴したが、25分以内の短いショートフィルムを見るだけでその商品や会社に対しての一種の愛着を持てるような気がした。最近はプロモーションを通じて、消費者にその商品やサービスのスペックなどの機能面のベネフィットを前面に出すのではなく、企業のフィロソフィーや製品の歴史、消費を通じた体験などを押し出し、これらに共感してもらうことで購買行動へとつなげるといった傾向がある。実際、それは「ストーリーマーケティング」とよばれ、多くの企業がモノ消費からコト消費に移っている現代において有効なマーケティング手法の一つとして注目している。昨今のマーケティングのトレンドを踏まえると、ブランデッドムービーはますます企業のブランディング、プロモーションの手段として注目されていくのではないだろうか。

ライター:宮路菜月

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