最近台湾国内のビジネスニュースサイトにスタートアップに関するニュース記事が増えている。そこで今回は国際的な台湾スタートアップ環境の概況や政府の取り組み、台湾国内のインキュベーターやベンチャーキャピタル等の紹介、スタートアップイベントについての最新情報をお届けしようと思う。
世界的に見た台湾のスタートアップ
まずは世界的に見た台湾のスタートアップ概況について紹介したい。
資料によると、台湾は総合結果であるグローバル起業家精神開発指数(GEI)は59.5%で世界18位、アジアパシフィックで3位という好成績を収めている。一方、日本はGEI世界28位、アジアパシフィック6位であった。ただし前年度に比べると台湾のGEIは1.5%ダウン、ランキングも2位ダウンし、やや成長に陰りが見えている状態。とは言え、世界的にもサブ項目の1つである「Product Innovation」のスコアが成長している傾向が強い中、台湾も例にもれず世界トップレベルのスコアを保持している。
別資料からも紹介すると、世界銀行が毎年、事業設立の容易性、資金調達環境、納税環境など10項目のから世界190の国と経済体のビジネス環境を100ポイント満点で評価し、発表しているビジネス環境ランキングにおいては、台湾は総合得点80.90点で昨年より順位を2位アップさせ、世界13位であった。総得点数も前年より上昇し、アジアパシフィック地域での順位も前年より1位上昇の5位という成績を収めている。なお日本は世界39位となっている。(2018年11月に発表)
世界的に見ても台湾のスタートアップ環境というのはまずまず良いと言えるのではないだろうか。
政府のスタートアップに関する取り組み
政府としても現在の産業構造を転換し、台湾をスタートアップ資本集積拠点にしたいという考えを持っている。これから実際に政府がどのような取り組みを行ってきたのかを紹介したいと思う。
台湾国家発展委員会が2014年にスタートアップ設立促進、グローバルなスタートアップ環境整備を目的とした創新創業政策会報(タスクフォース)を立ち上げ、「創業抜萃投資方案」を開始した。それ以来、海外からの投資や知識流入量も確実に増え続けおり、実際に外国人向けのアントレプレナービザの発行などが認めたり、公司法の法案調整などを行うなど、海外から起業家や投資家誘致に対して積極的な姿勢を見せている。「台湾創新創業中心(TIEC、後述)」をシリコンバレーに設置したのも、台湾のスタートアップを国際的に通用する企業へと成長させる意図を感じさせる取り組みである。
政府としては、成長が期待できるAIやIoT、ヘルスケア領域へ注力しており、2018年2月にはさらなる成長促進のため、スタートアップ投資の環境改善策を表明している。6月にはTech系スタートアップの支援拠点として台北アリーナ内に「TAIPEI TECH ARENA(TTA)」を設置した。また9月には、台北郊外の新北市林口に「林口新創園」を開設し、国内外からの優秀な起業家の訴求を図っている他、世界の起業家、投資家を集めた国際会議「GECプラス台北」を実施するなど、スタートアップの育成に対して非常に精力的である。
台湾インキューベーター/アクセラレーター、スタートアップコミュニティ、ベンチャーキャピタルについて
政府の後押しもあり、盛り上がってきたスタートアップシーンだが、インキュベーターやアクセラレーターなどの存在も忘れてはいけないだろう。以下は政府が国家としてのブランドイメージを持つスタートアップのクラスターとして設立した「台湾新創競技場(TSS)」によって整理されたスタートアップに関するカオスマップである。このマップに基づいていくつか紹介したいと思う。
●インキュベーター/アクセラレータ―
台湾で最も大きいアクセラレータ―、VCとして認知されており、328のスタートアップ、925の投資家のハブとなっている。スタートアップのステージに合わせた支援を行っている。弊社もこのApp Worksには日本企業として初めて参加している。
Garage+ は、台湾有数の大企業20社が資金提供する非営利組織Epoch Foundationによって運営されている。インキュベーションスペースの無償提供提供やアーリーステージのスタートアップの支援を行っている。
金融業界と技術産業の融合に焦点を当て、台湾の金融業界の成長と変革の原動力となるとともに、新しいフィンテックの専門家を訓練し、新しいフィンテックの新興企業を加速させることに注力しているアクセラレータ―。
Be Capitalと大仁医療グループによって設立されたHealthTech領域のアクセラレータ―。台北と北京に拠点を置いている。
中興大学の学生が中心となって設立された若年層を対象とした台中のインキュベーター。TC Demo ShowやTC Talk Showなどのイベントも行っており、AIについての知識を深めたりピッチの開催もしている。
●スタートアップコミュニティ
高雄市経済発展局が運営するインキュベーションセンター。ワーキングスペースの開放はもちろん、勉強会の開催など5つのコミュニティが形成されている。
台湾のビジネスメディアBUSINESS NEXTのグループ会社によって運営されている。平均月1回、セミナーなどの小規模なイベントを行っており、スタートアップ同士が交流できるコミュニティとしても認知されている。
政府科学技術省の主要プロジェクトの1つとして、グローバルマーケットで活躍できる台湾スタートアップを輩出するエコシステムになることを目標として2015年にシリコンバレーに設立された。
●ベンチャーキャピタル
HealthTech領域のスタートアップへの投資を行っているベンチャーキャピタル。
台杉投資
行政院国家発展委員会によって国内投資、経済成長促進、民間資本の統合を目的に設立されたIoT、Biotech領域を中心に投資を行っているベンチャーキャピタル。
スタートアップに関するイベントの開催も盛況
台湾でもスタートアップに関するイベントが頻繁に行われている。先ほど紹介したMeet創業小聚による平均月1回のイベントや、2014 年から年に1度開催されている「Meet Taipei創新創業嘉年華」は知名度の高いものである。
今年度は11月15日から17日までの3日間にわたって開催され、450以上のスタートアップがブース展示を行い、来場者数は1.7万人を突破している。
また、資訊工業策進会が毎年開催するIDEAS Showという大規模なイベントも有名なイベントの1つである。台湾スタートアップ関係者はもちろん、アジアを中心に活躍する投資家などが集まり年に1度程度の頻度で行われ、スタートアップが自らのアイデアをプレゼンテーションする機会となっている。
今年度は7か国から36チームが参加し、台湾からはインターネットマーケティングサービスを運営するDipp、C2Cの駐車場シェアサービスを運営するUspace、 広告サービスを運営するOlis Innovationの3社が受賞している。
これら以外にも比較的小規模なイベントはインキュベーターやアクセラレータ―を中心に頻繁に開催されているイメージが強い。
海外からの投資を受ける台湾スタートアップ
海外大企業も台湾のスタートアップに注目している。中国のアリババはスタートアップ育成のために「Alibaba Entrepreneurs Fund(阿里巴巴創業者基金)」を設立し、台湾スタートアップの支援を行っている。現在までの投資先は以下8社を含める23社。投資額は22社目のへの投資段階で約20億台湾ドルを超えている。今回は投資先スタートアップを一部紹介する。
ブロックチェーンによる財産管理アプリケーションの運営を行っている。
VR/ARを活用したアプリケーションの運営を行っている。
医者と患者に対して遺伝子学的な分析をもとに適切な治療法や医薬品を提案するサービスの運営を行っている。
モバイル・デジタル医療とクラウドサービスを融合し、糖尿病管理補助アプリケーションを運営している。
企業の経営課題解決をサポートするAI搭載のプラットフォームの提供を行っている。
Deep learningを活用したAIとコンピュータビジョンテクノロジーを用いて企業の課題解決をサポートするサービス展開をしている。
1対1でコーディングを指導してくれるメンターとマッチングできるオンラインプラットフォームの運営を行っている。
IoTと電力技術を融合し、家庭でのエネルギー管理を簡単に行えるシステムを提供している。
その他:
Jollywiz、4Garmers、ADENOVO、citie social、Cocomelody、How living、Kloudless、Kneron、Morning Shop、OPAQUE STUDIOS、Platina Systems、PLUVIO、Space Cycle、Umbo Computer Vision、KKday
これからのスタートアップシーン
上記で紹介した今年度の「Meet Taipei創新創業嘉年華」会期中に行政院長賴清德は、台湾の新産業の発展を促すために国家開発基金と規制の緩和により、2000億台湾ドル以上の投資を新たに行うと述べている。
さまざまな分野でのスタートアップの勃興がみられる台湾。政府としても「ユニコーン企業」を、2年以内に少なくとも1社生み出すという目標を掲げており、どんなスタートアップがその目標を達成するのかも含めて、これからも台湾スタートアップについてはしっかりと注目していきたい。
ライター:宮路菜月